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~夢の底─

第1章  ─水と炎と。

 ─ピアノの旋律が、ゆるやかな流れに変わる。 「勿体ないね。…惜しいよ─」運ばれたエスプレッソをスプーンで混ぜて「チャンミンさんに残念がっていただくなんて、嬉しい─」咲いた花に似た、笑顔だった。「でも─ご両親…大事にしてあげる…。ヒースくんにしか、出来ないものね…」「はい。僕もずっと、そのつもりでした」「養親だって、いつ知ったの?」デミタスを取り上げる。「最初から。中学に、入る年に引き取られました」「その時、香港に移った?」「養育園も、香港でした」…ピアノは、小さく、スタンダードを奏でている。
 「養親には、大学に行きなさいって云われたんです。─工芸の家でした。年を取ってから、僕を養子にしたんです」「工芸の…何作るの?」「陶芸です」「君が…跡継ぐ?」少し笑い、首を振った。「…もう、人手に渡って工務店になったようです」「そう…」「進学より、僕は音楽が好きだから…養親も、従業員もいない小さな工房だったし。跡継ぎは考えてなかったみたい」スプーンをソーサーに置いた。「きみはひとりっ子だよね。しっかりしてるね…」「でも、やっぱりワガママなひとりっ子です。勝手に練習生になったりしたんですからね…」

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