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~夢の底─

第1章  ─水と炎と。

 タクシーを降り、旅行地図を取り出そうとすると、遠くから手を振る人が見える。「チャンミンさん─」 海からの突風が、二人の髪をかき乱す。「…せっかく来てくれたのに」「ハイ─」後ろを振り返り、「風が強いから今日は閉鎖だって」「─公園がですか?」残念そうに、チャンミンが頷く。微笑みを浮かべたヒースは、「…凄い風ですもの…波、白い泡みたい─」指さす海の方に、顔を向けるチャンミンの髪を、強風が吹き過ぎて行った。─そのまま、二人は肩を並べて、海に向かって歩く。「砂まで─飛んで来ますね」「髪も、ぐしゃぐしゃ…」
 取り壊し途中らしいレスト・ハウスの脇を通る。ガラスは無く、窓枠が残っている。中に入り、斜めに置かれた長テーブルに座る。「アルバイト休みの日に、ごめんね」「…楽しいです、やっぱり外に出ると─バイトはビルの中だから…」「バイトは何─?」「カラオケ店です」笑って答える。「ここまで、どうやって来た?」「駅からタクシーです」……
 ─砂浜に風が雲を連れ、不意に影が射す。「チャンミンさんは…ひとり旅どうだったんですか」笑顔で訊く。「うん。退屈だった。でも時間に縛られないって良いね」
 …海鳥たちが、一斉に鳴き騒ぐ─。

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