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Tears ~緑のしずく~

第6章 恋模様~橋上の月・再会Ⅱ~

そんな空しい年月を重ねているうにち

私は夜空の月を数えるどころか
 見上げることもなくなった

 少しずつ満ちてゆく上弦の月
 ふっくらと赤児を宿した身重の女のような盈月(えいげつ)
 やがて 欠けてゆく下弦の月

気の遠くなるような季節のめぐりを経て
幾千もの夜と朝の繰り返しを数え

 私は
 欠けては満ちる月のように
 ゆっくりと老いていった


 ある朝
一人の見知らぬ男が
 私の前に立った

私の瞳は
 もう何も映さない
あの男が去ってからというもの
 私の見る男はすべて
あの男のしか見えないのだから

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