濃密 恋絵巻
第2章 ~歪んだ想い~
月蔭は、屋敷の敷地の外を出て歩きながら鋭い目つきで辺りを警戒した。
いつもより妖怪共が騒 いでいる…
…人の存在に気が付い たか…
月蔭はうごめく無数の妖気を感じとり、眉間にしわを寄せながら後ろを振り向いた。
視線の先には、艶やかな着物を着た20代半ばくらいの和風美人の姿があった。
背はちょっと高めで、着物を着ていてもメリハリのある身体つきだという事がわかる。
背中まである艶々の黒髪はストレートで、前髪は真ん中で分けている。
顔には白粉や紫色のアイシャドウに赤い口紅をつけていて、綺麗な大人の女性という感じだ。
この和風美人の名前は、琴刃(コトハ)。
「何しに来た」
「相変わらず冷たいお言 葉…」
「用があるなら早く言え 」
「ふふ…妖怪達が噂して いましたわよ
人間の女と暮らしてる と……
だからわたくし、居て もたってもいられず見 に来てしまいました」
柔らかな微笑みを浮かべながら、琴刃はゆったりとした足取りで月蔭に近付いていく。
「お前には関係ない」
「あるわ…
わたくしの気持ちを知 っているでしょう?」
琴刃は目の前で足を止め、潤んだ瞳で月蔭を見上げた。
「何十年…何百年経って も…月蔭様に対する想 いは変わらないわ…
あんな女なんかより… わたくしの方が月蔭様 の事を知ってる…」
「前にも言ったが…お前 に興味がない
だからお前の気持ちに は応えられない」
「そうね…
でもあの女には興味が あるみたいね…」
にこやかな微笑みの中に女の嫉妬・怒りを感じさせ、月蔭は怖いくらい目を鋭くさせた。