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夜が開けるまで

第1章 仮面夫婦



遠く水平線と、桜色に染まった山が見渡せる霊園



黒い礼服に身を包んだ一人の女が
柄杓で桶の水をすくうと、ゆっくりとした手つきで墓石に回しかけていく



少し白髪の混じった黒髪をアップにし、化粧気はないが、
その横顔は凛として美しく、哀しさを微塵にもみせない


まるで墓石を愛おしむように、ゆっくりと何度もかけていく


そして、静かに手を合わせた




「私は明日、この街を離れるわ。


美しい街だけど、私にはいろいろな事があり過ぎたの。

さようなら」







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