
夜が開けるまで
第5章 誤算
ある日、由紀は勤務中に拓馬を連れて、高台の別荘地にある知人宅を訪問した。
遠くに水平線が見渡せる、緑豊かな洋館だ。
バラのアプローチをくぐり、二人は玄関の扉の前に立った。
「いらっしゃい」
60前後と思わしき、品の良いマダムが二人を出迎えた。
真っ赤な口紅を塗り、長い黒髪を束ね耳には大きなリングのネックレス。
「初めまして。
加藤先生よりご紹介に預からせて頂きます田中由紀と申します。こちらが向井拓馬君です」
「コウちゃんから話は聞いてるわ。
どうぞ、お入りになって」
