夜が開けるまで
第7章 葛藤
暫くして武志がラウンジに降りてくると、カウンターにいた由紀の真横に腰を掛けた。
Barタイムのラウンジは、間接照明が灯され、大人の落ち着いた空間と時間を演出している。
「お待たせして申し訳ない。何か注文はしましたか?」
「いいえ。いらしてからと思いまして」
「お好きなものを頼んで下さい。私が持ちますよ」
由紀は赤ワインを、武志はビールをそれぞれに注文した。
武志は由紀の横顔をまじまじと見ると言った。
「田中さん、実に美しい方だ。
息子が夢中になるのも無理はない。
あなたのことは調べさせてもらいましたが…
ご実家は随分と立派な家柄のようですね」
武志の第一声に、由紀は硬直した。