
夜が開けるまで
第1章 仮面夫婦
由紀は研修と偽って、年に数回東京へ泊まりがけで出かけていた。
都内の一流ホテルに一泊し、非日常に身を置く。
それが唯一の気分転換でもあり、また支社長との密会場所でもあった。
地区を統括する支社長、蓮田啓介は50歳
異例の早さで出世した、叩き上げの元営業マンだ。
蓮田は由紀の影のある美しさと、困窮する家庭事情に、過去の自分と重ね合わせるように情を移した。
大口契約になりそうな見込み客に、支社長を同行させると契約率は100%。
マクラ営業よりも掟破りの営業だった。
「接待が長引いてしまってね。待たせてすまなかった」
「お疲れ様でした。ゆっくりと寛いでいたから平気よ」
都心の夜景とレインボーブリッジが見渡せるベイサイドのホテル
深夜0時、二人は抱き合うと唇を重ねた。
