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小春食堂【ARS】

第26章 走る走る【雅紀】

俺は晩飯を食べ終わると、ケンジの部屋をのぞいた。

「お前、また出張だって?中国行くなら、月餅買ってこいよ。」

「月餅なら横浜の中華街で売ってるじゃん。」

ケンジは手馴れた様子ででかいトランクに荷物を詰めている。

「今回はどのくらい行くんだ?」

「2週間の予定だよ。去年立ち上げた中国工場の視察と指導に行くんだ。」

「ふーん。まぁ、気をつけて行ってこいよ。」

「あぁ。」


ケンジは、関東セラミックという世界中に支店や工場のある会社に勤めている。
俺と違って頭がよく、難関大学を卒業して、一流企業に就職した。
海外出張も多い。とにかく仕事は忙しいようだ。

「兄ちゃん、来週同窓会あるんだろ。」

「ん、あぁ。高校の時のな。」

ケンジは、話をしながらも手を休めずテキパキと荷物を詰める。

「どうする?久しぶりにクラスメイトに会って、恋が燃え上がったら…。」

「なっ、なんだよ、それ!」

俺は、ここ数年彼女はいない。
実際、同窓会に淡い期待を寄せていたことを見透かされて焦った。

「♪ずっと好きだったんだぜ~♪」

「馬鹿!やめろよ!」

ケンジは歌を歌ってからかってくる。
俺は、耳まで真っ赤になった。

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