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小春食堂【ARS】

第36章 約束の5日間【小春】

大野さんは絵を立てる台を持って来て、スケッチブックを開いてのせた。

「よろしくお願いします。」

大野さんは鉛筆を手にした。

その瞬間…、大野さんの顔つきが変わった。

さっきの頼りない表情は影をひそめた。

眉は上がり、ふにゃふにゃしてた背筋はキリッと伸びた。

何よりも、目が変わった。

海のような瞳でうちを見つめると、まるで身ぐるみはがされたような気持ちになった。

大野さんの眼差しは、すべてを見透かし吸い込んでしまうような、深い深い眼差しやった。

うちは急にドキドキしだした。

鉛筆の音だけが響く室内。

西から差し込む昼下がりの日差し。

大野さんの海の瞳。

その静寂と鉛筆のかすかな音が、うちの体の奥の方を高ぶらせていった。

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