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小春食堂【ARS】

第19章 坊(ぼん)【潤】

俺は、泣きながら食べた。

他の客がみんな驚いた目で俺を見たけど、女主人は俺をジロジロ見たりはしなかった。

全部食べ終わる頃には、涙はおさまっていた。

そろどころか、すごく安らかな気持ちでいっぱいになっていた。


「どうぞ。」


女主人は、湯飲みに温かいお茶を入れてくれた。

そのお茶はなんか独特で、煙のような味がした。

お茶を飲み終えて勘定を済ませようと財布を開けたら…


金が入ってなかったんだ。


「あの…、お金がなくて…。」


女主人は、これには驚いた様子で言った。


「うちも商売やしね…。お勘定はいただかんとなぁ。」


あぁ、とうとう警察の世話になるのか…。

そう思ったとき、女主人はメモ用紙を取り出して来た。


「借用書書いて。」


俺にペンを差し出した。

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