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【S】―エス―01

第8章 記憶の鍵

 ◇1


 ――ざわり、風に凪ぐ木々の音で浮遊していた意識は留まる。


 気づくと目の前には、欠けた月を覆い隠す樹木が聳えていた。


 すぐ傍らには大きな屋敷があり、点々とついた窓の明かりが茜を見下ろす。


 時は夜。広い庭にぽつんと佇む茜は、違和感に自らの両手を見やる。


(私の手……小さくなってる)


 だが、少女が変化を感じたのは手だけではなかった。身の丈から衣服に至る全てのものが変わっていたのだ。


 突然、屋外から屋内へと周りの風景が変わる。


 恐らく、先ほどまで外で見ていた屋敷の中なのだろう。目の前には温かな照明に照らされた長い廊下が続いていた。


 突き当たりには、古い木製のドアがそびえる。なぜだかそのドアに呼ばれたような気がした。


(なんだろう?)


 導かれるように、古びたドアの前へと歩を進める。


 ドアノブと目線が同じくらいで、それが幼少の時分であることを改めて知らしめたのだった。


 ドアノブにゆっくりと手を伸ばす。


「茜!」

 

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