【S】―エス―01
第8章 記憶の鍵
栗色の長い髪を躍らせ振り返った茜は、白衣姿で駆け寄ってくる父親を見上げる。
彼はドアから引き離し、そして床に膝をつき言う。
「ここには入っちゃダメだ」
「なんで?」そう訊こうとしたが、父の真剣な眼差しに切り出すことができず、ぐっと言葉を飲む。
「いいかい?」
目線を合わせ、再度言い聞かせる。
黙ってこくりと頷くも、なぜ父がそのようなことを言うのか――。
幼心、そんな思いにかられながら廊下の突き当たりにあるドアをじっと見つめる。
「さ、母さんのところに行ってなさい」
立ち上がりそう言う。真剣な表情から、珍しくほんの一瞬だけ柔らかな笑みを見せた。
いつも眉間に皺を寄せ険しい顔をしていた父、暁(あきら)。茜の記憶には、そんな父の姿しか残っていない。
去り際に茜は振り返りドアを見る。ドアは沈黙のまま、どこか寂しげな影を落とす。
ただそのドアから漂う雰囲気は独特で、しかし恐怖感というものは感じられなかった。
(いったい、何があるのかな?)
ゆったりとしたピアノの旋律が廊下に響く中、次第に意識は遠のき……。
「――!」
暗い部屋の中、はたと目を覚ます。
彼はドアから引き離し、そして床に膝をつき言う。
「ここには入っちゃダメだ」
「なんで?」そう訊こうとしたが、父の真剣な眼差しに切り出すことができず、ぐっと言葉を飲む。
「いいかい?」
目線を合わせ、再度言い聞かせる。
黙ってこくりと頷くも、なぜ父がそのようなことを言うのか――。
幼心、そんな思いにかられながら廊下の突き当たりにあるドアをじっと見つめる。
「さ、母さんのところに行ってなさい」
立ち上がりそう言う。真剣な表情から、珍しくほんの一瞬だけ柔らかな笑みを見せた。
いつも眉間に皺を寄せ険しい顔をしていた父、暁(あきら)。茜の記憶には、そんな父の姿しか残っていない。
去り際に茜は振り返りドアを見る。ドアは沈黙のまま、どこか寂しげな影を落とす。
ただそのドアから漂う雰囲気は独特で、しかし恐怖感というものは感じられなかった。
(いったい、何があるのかな?)
ゆったりとしたピアノの旋律が廊下に響く中、次第に意識は遠のき……。
「――!」
暗い部屋の中、はたと目を覚ます。