
【S】―エス―01
第2章 予兆
時刻は正午を回った頃、瞬矢は椅子の背に凭れくつろいでいた。格好は、白のYシャツに黒いジーンズと至って普通だ。
机の上に無造作に置いてあった煙草の箱。それを取ろうと、おもむろに手を伸ばす。
「……!」
だが残りがあと1本しかない事に気づき、瞬矢は小さく舌打ちをすると、煙草の箱とライターをひっ掴み重い腰をあげる。
**
横断歩道を渡りきり、近くの橋の下にあるガードレールに背を向けて立つ。手には新しく煙草が1箱。
胸ポケットからライターを取り出し、取っておいた最後の1本に火をつけ、肺いっぱいに煙を味わう。
人通りの少ないこの場所は、瞬矢にとって落ちつくもの。
ゆっくりと吐き出した煙が大気中へ溶け込み消えてゆくのをただぼんやりと眺めていた。
雑踏、残響、いつもと変わらない鈍色の平坦で平穏な一時。
「待て!」
だが、突然その平穏を打ち壊すかのような男の声が響く。
何事かと、半分ほどを吸い終えたところで、声がした方にふいと目をやる。
