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【S】―エス―01

第8章 記憶の鍵

 そうだったと目を伏せはにかむ。そして天を振り仰ぎ、ひとつ溜め息をつく。


「よかった」


 茜は口元に笑みを残しつつ、遠くの山の端に点々と建つ鉄塔を眺め言う。


「何が?」


「別に、なんでもないよ」


 にわかに頬を紅潮させ、ふいっとそっぽを向く。


「?」


 茜のその姿に、瞬矢はきょとんと小首を傾げる。


「じゃあこれ、瞬矢に渡しとくね」


 くるりと身を翻し、あるものを瞬矢へ手渡す。


 それは、先刻茜がカメラから引き抜いたメモリーカードだった。


 手渡されたそれに視線を落とす。その際、ほんの一瞬だが寂しげな表情を窺わせたのを茜は見逃さなかった。


 だがそれは、注意していなければ分からないほどにわずかな間。


「帰るか」


 すぐさまもとの表情へと戻り、上着のポケットに仕舞い言う。その口調は、至って明るいものだった。


 それに、茜は黙って笑顔で頷く。


 煙草を携帯灰皿に捩じ込み乗車する。


 星ぼしが空に輝きを増した頃、2人の乗った車は屋敷を後にした。


 ここでの出来事は、それぞれの胸中に思うところを残す結果となった。


 しかし、それが今後の2人の運命を大きく変えることになろうとも知らず。
 

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