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【S】―エス―01

第10章 化け物

 瞬矢は混乱の中にあった。


 その表情に先ほどまでの他者をからかうような笑顔はなく、呆然と立ち尽くすのみでしかない。


(俺が【S】? どういう意味だ?)


 疑問の数々が、瞬矢の脳内で巨大な渦を巻く。


 西に傾き始めた太陽がまるで今現在の心境を映し出すかの如く、全ての造形物に長い影を落とす。


 瞬矢はただ駅の入り口に佇み、男が消えていった通りを見つめていた。


     **


 ――午後6時30分。


 背後につき纏う突き刺さるような視線。その視線の持ち主は、明らかに瞬矢のことを嗅ぎ回っていた。


 街灯はチカチカと点滅を繰り出す。足を止めた瞬矢は、振り返りビルの間に向かい言う。


「いい加減出てきたらどうだ?」


 薄暗がりを縫いビルの間から街灯のもとすうっと現れたのは、制服を着た少年、四宮だった。


「おまえ何者だ?」


 だが四宮の口調は至って落ち着いたもの。


「……【何者】か。いい質問だ。だが生憎、俺もその答えを知らないんでね」


 四宮は一瞬眉をひそめ、訝り顔で瞬矢を見据える。
 

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