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【S】―エス―01

第10章 化け物

 瞬矢は推測する。恐らくその人物こそが実験の依頼主であり、自分たちを異能へと貶(おとし)めた元凶だろう、と。


 尚も顔の横でメモリーカードを翳(かざ)しながら、瞬矢は困惑気味な男の返答を待つ。


「……言えない。ただ、これが世に知られれば混乱は免れないことだけは確かだ」


 ――知られてはいけない。


 恐る恐る答えた男の顔は、そういう表情をしていた。


 思い返せば、研究所にいた渡辺 真里も、こと【S】についてはどこか言葉を濁している節があった。


「まぁいいさ、どうせすぐに分かることだ」


 ふっと口元を緩ませ、瞬矢は男にメモリーカードを渡す。それを受け取った男は、改めて瞬矢に一瞥くれるとこう言う。


「まさか、お前がもう1人の【S】だったとは……傍目には全く――」


 一旦言葉を途切れさせ、さらに一言。


「しかし、人ならざるヒトとはよく言ったものだ」


 その時、携帯電話が鳴り男は何度か相槌をうつ。


 そして終話するや否や、少々喋り過ぎたとばかりに口を噤(つぐ)み片手で覆い、人混みの中へと消えていった。
 

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