
【S】―エス―01
第11章 怪物の涙
黄昏時、すでに日は傾き始めていた。
「あの事件ならもう終いがついたはずだろ?」
部屋に入ると振り返りもって香緒里を見やり、瞬矢は問う。
「ええ、残念ながらね。でも代わりに訊きたいことが」
入り口の壁に凭れた香緒里は皮肉めいた台詞で口元をつり上げると、そう言葉を続けた。
顔を背けた状態でその言葉を耳にした瞬矢は、くすりと一笑に伏す。
「へぇ、奇遇だな。ちょうど俺も訊きたいことがあったんだ」
部屋の中ほどまで歩きながら同じく皮肉混じりに答え、ソファに腰かける。
「あんたの父親――」
改めて深めに座り直し訊ねる。
「新田 健(にった たける)っていうんじゃないか? 10年前、事故で死んだ」
言いかけた時、明らかに香緒里の表情が一変する。
それまでは、険しさの中にもどこか温かみのある眼差しだった。
だが『新田 健』の名前を出した途端、彼女は眉をひそめ瞳の奥で揺らいでいた温かみある光はどこぞへと消え去る。
「随分、立ち入ったことを訊くのね」
