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【S】―エス―01

第11章 怪物の涙

 だがしかし、一度は疑いを向けてしまったという負い目もあってか香緒里はひとつ重たい溜め息をつき、俯いたままゆっくりと話し始める。


「確かに、新田 健は私の父親よ」


 半目するその表情は、どこか遠く過去を見つめているかのようであった。


「後で分かったことなんだけど、当時、父は公安の命令である任務についていた。それがどんなものなのかは、分からず終いだったけど……」


 彼女の父親が上からどのような命令を受けていたかは、恐らく極秘事項。


 ならば、当時のことを知る者などまずいないだろう。


「でも私は、父が事故死したなんて思ってない」


 その言葉からも、彼女が父親の死の真相究明を諦めていないことが分かる。


「だから、私は何があっても真実を追求し白日のもとに晒すこと」


 そう力強く断言した香緒里は、自らの胸の前で右手を握りしめる。


 窓から差す西日が部屋を、そして全ての物をオレンジ色に染め上げた。


 やはり『新田 健』と『仁井田 健』は同一人物。すると、瞬矢の考察のうちひとつは的中したことになる。


 ――となれば、ここからが本題だ。


「例えそれがどんな真実でも、か?」
 

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