【S】―エス―01
第12章 穿つ森
いつからか、すぐ左後方にある墓石の上で一羽の烏が羽根を休める。
烏は首だけを向け、その黒く艶やかな風貌と同じ色の瞳で終始黙って見つめていた。
約20分後、ようやく全貌を見せる塗り潰された文字。
持っていた工具を地面に置くと、邪魔臭く額に貼り付いた髪の毛を手の甲で拭い、晒された墓碑名を黙読する。
――『東雲 刹那』。
その名前に、瞬矢はよろよろと立ち上がる。
12年前、すでに刹那は死んでいた。ならば自分にあの手紙を送ってきたのは、今回の一連の事件を起こしたのは誰なのか?
様々な疑問が、瞬矢の脳裏を閃光の如く駆け巡る。
先ほどから墓石の上で憩う烏が、かぁ――、と一声あげて飛び立った。
(刹那、お前は何者なんだ?)
今まで追いかけていたものの正体が不明瞭となり、その場に立ち尽くす。
妙に乾いた風が、促すようにざわりと木々を揺らし、色づき始めた木の葉を宙に躍らせる。
その光景は、真実に近づきつつある瞬矢を囲みひそひそ話をしているようであった。
瞬矢は右手でシャツの襟元を摘まみ、風を送る。後方に顔を向けながら、幾重にも枝分かれした木々で遮られた天を振り仰ぐ。
またひとつ、どこかの木陰でかぁかぁと、羽音を響かせ烏が鳴いた。
烏は首だけを向け、その黒く艶やかな風貌と同じ色の瞳で終始黙って見つめていた。
約20分後、ようやく全貌を見せる塗り潰された文字。
持っていた工具を地面に置くと、邪魔臭く額に貼り付いた髪の毛を手の甲で拭い、晒された墓碑名を黙読する。
――『東雲 刹那』。
その名前に、瞬矢はよろよろと立ち上がる。
12年前、すでに刹那は死んでいた。ならば自分にあの手紙を送ってきたのは、今回の一連の事件を起こしたのは誰なのか?
様々な疑問が、瞬矢の脳裏を閃光の如く駆け巡る。
先ほどから墓石の上で憩う烏が、かぁ――、と一声あげて飛び立った。
(刹那、お前は何者なんだ?)
今まで追いかけていたものの正体が不明瞭となり、その場に立ち尽くす。
妙に乾いた風が、促すようにざわりと木々を揺らし、色づき始めた木の葉を宙に躍らせる。
その光景は、真実に近づきつつある瞬矢を囲みひそひそ話をしているようであった。
瞬矢は右手でシャツの襟元を摘まみ、風を送る。後方に顔を向けながら、幾重にも枝分かれした木々で遮られた天を振り仰ぐ。
またひとつ、どこかの木陰でかぁかぁと、羽音を響かせ烏が鳴いた。