【S】―エス―01
第13章 ある日の邂逅
――201X年 10月24日。
午後3時58分。
殺風景な部屋。窓から差す西日が黄昏色に染める。
在りし日への懐古。実際にはほんの一時であったが、もう随分と長い時間昔のことを思い出していたように錯覚させる。
相も変わらずただ一点を見つめる茶色い両の眼(まなこ)は、あの日と同じ不安定な色に揺らぐ。
「……母さん」
静寂を打ち破り思わず漏れ出た声は青年のもので、彼が見下ろす先には、白い病室のベッドに眠る1人の女性がいた。
枕元のネームプレートに走り書きされた名前。
――女の名前は『東雲 夕子』。
彼女の手には煤(すす)けた1枚の写真が大事そうに握られている。
無邪気な笑顔の黒髪の少年と、その母親。
彼はその写真にそっと視線を移す。
静かな病室に佇む彼の姿は、今は過ぎ去りし遠き昔を懐かしむ、どこか郷愁にも近いそんな想いが遠目にも滲み出ていた。
やがてオレンジ色は西の空へと身を潜め、青の中にうっすら緑を帯びた夕闇が訪れる。
いつしか、病室から青年の姿は消えていた。