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【S】―エス―01

第15章 宝探し

 ◇


 ――201X年 11月7日。


 午後10時23分。


 とあるマンションの一室。香緒里は玄関を開け明かりをつける。


 しんと静まり返った部屋。壁紙は白で統一されスタイリッシュな印象を与える部屋だが、1人で住むには少しばかり広く感じる。


 リビングの固定電話に留守電の赤いランプが点滅していた。恐らく母親からだろう。


 10年前に父親が単なる事故死として片づけられた時、警察をどれほど憎んだことか。だがどうだ、結局自分も父親と同じ道を歩んでいる。


 おもむろにスーツのジャケットだけを脱ぎ、そして斎藤 瞬矢から受け取ったメモリーカードをテーブルの上に置いてあるノートパソコンに繋ぐ。


 画面が映すのは、10年前、ある少年の薬物による実験で起きた凄惨な光景。


『あんたの父親は仁井田という偽名を使っている』


(彼の言ったことが本当だとしたら、当時、父は東雲 暁の製薬会社に潜入していた?)


 パソコン画面の映像とメモリーカードを交互に眺め、香緒里は思う。父は本当に何も遺さなかったのだろうか。


 ふと香緒里の脳裏を、遠い日の父親との思い出がよぎる。


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