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【S】―エス―01

第15章 宝探し

 
 それは、17年ほど前のこと。


 玄関を出ようとしていた父親に、右手で敬礼の真似事をしてみせる。


 その頃の彼女は、刑事をしていた父親に憧れがあった。


「【宝探し】する約束、忘れないでよ」


「ああ。忘れないさ」


 大きな手が香緒里の頭を撫でる。


 【宝探し】とはお互いに大事な物を隠し探しあう、当時の香緒里が父親とよくやっていた遊びだ。


 父の大きく温かな手に撫でられながら、香緒里は笑顔で頷く。自分の父親が抱えているものの重さも知らず。


 それから5年を過ぎた頃、何かが狂い始めていた。まるで錆び付いた歯車が音を立てて軋むように。


 以前に比べ父、健の様子が明らかにおかしい。時折見せる表情は、何かに迷っているような重大な決断を迫られているような、そんな表情だった。


 香緒里はある日思い切って父親に切り出した。


「私が警察の人になって、お父さんを苦しめてる悪い人捕まえてあげる!」


 すると父はこんなことを言ったのだ。


「そうか。香緒里なら、本当の真実を見つけられるかもな……」


 香緒里を見てふっと口元を緩ませ、何かを決断したような張り詰めた笑みで。
 

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