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【S】―エス―01

第16章 雪の降る夜

 ◇1


 ――ある日の午後。


 窓のない薄暗く長い廊下を1人の少年は歩いていた。


 きっと屋敷の中なのだろうが、自分が今どの辺りにいるのかすら分からない。


(ここはどこだろう……?)


 全ては、左手首に嵌められた銀色の腕輪が生み出した偶然。


 所々が伸び目にかかるほどの黒髪を躍らせ、少年は壁伝いに歩き続ける。ふと眼前に、半開きとなっている木製のドアが視界に留まった。


 少年と外界とを遮るように立ちはだかるドアの隙間からは、明るく光が差し込む。


(……まぶしいなぁ)


 ドアの向こうから差し込む光の眩(まばゆ)さに、少年は目を細める。


 ひとつだけ開いた窓から吹き込む風に、ふわり、カーテンレースが舞う。


「……だれ?」


 部屋の奥から、小鳥が囀(さえず)るかの如き少女の声が響く。


「……っ!」


 少年の小さな胸の鼓動が、高らかに脈打つ。


 誰かに見つかったことへの緊迫感、それもあった。


 だがそれ以上に部屋の奥から聞こえた少女の鈴の音のように澄んだ声が、少年の興味を掻き立てたのだ。


 恐る恐るドアの隙間から中の様子を覗き込む。だが、声の主である少女の姿は窺えない。
 

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