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【S】―エス―01

第17章 困惑

 刹那の言った台詞がふっと脳裏を掠め、否定しようと横にかぶりを振る。


 だが、それでも眼前に映る自分は刹那が笑いかけているようで、鏡にそろそろと右手を伸ばす。


 途端、響いた炸裂音。


 手を伸ばし触れる直前、鏡に大きく罅(ひび)が入る。それは昆虫の複眼のように幾重にも歪んでいた。


 再び襲い来る頭痛。それは脳内を鷲掴み、次第に外側から締め付けるものへと変わってゆく。


「ぐあ……がっ……!」


 前屈みに発した呻き声と共に後方へよろけ、両手で頭を抱え込む。


 罅が入った鏡は小さく複数の自身を映し、そこに在る彼はいまだ妖しげに笑っているように思えた。


「はぁ……はぁっ……」


 荒く乱れる呼吸。見開かれた瞳は青く、より一層の光を帯びた。


 じりじり電気回路の異常を告げる音をあげた洗面所の照明は、不規則に点滅し、脳内に新たな映像がフラッシュバックする。


 薄暗い研究室、鮮血、横たわる亡骸、そして無表情に【それら】を見つめる1人のS【片割れ】……。


 彼は言った。


『――――』


「うぅあぁあああ――っ!」
 

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