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【S】―エス―01

第17章 困惑

 ◇3


 ――201X年 12月22日。


 午後3時35分。


 先週とほとんど変わらぬ出で立ちをした茜の手には、返しそびれた深い緑色のマフラーが握られていた。


 黄昏時、前回のこともあっての気まずさから重たい足取りは、歩いては止まりまた歩くを繰り返す。


 一部磨りガラスとなっているドアの向こう側に姿が確認でき、再びあの胸の高鳴りが襲う。軽く手の甲でドアを叩く。


 ドアの向こうから、わずかに返事が聞こえた気がした。遠慮がちにドアを開ける。


 確かにそこに瞬矢はいた。だが部屋を仕切る壁に身を預け、頭を垂れるその雰囲気は――どこか虚ろ。


「あの……」


 さらにはいつもと様子が違う彼に、吐き出した言葉も空気中に溶け込む。


 瞬矢は右手で頭を抱え、意識をゆらりと茜に向ける。その表情は逆光と左手に隠され窺えない。


「帰れ」


 発せられたのは酷く冷たくけれども虚ろな声で、目的も後に続く言葉も忘れ立ち竦む。ゆらり、大きな影が視界を覆う。


 途端、左側で響く鈍い音。


「――っ!?」


 びくり、身を震わせ肩を竦める。
 

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