
【S】―エス―01
第17章 困惑
壁を叩きつけ道を塞ぐ右手に驚き、ぎゅっと両目を閉じる。
しばしの後、そろそろと瞼を持ち上げると眼前に瞬矢の顔があり、するりと頬に滑らせた左手の隙間から鋭く見据えていた。
「早く……、出ていけ!」
にわかに表情を歪め絞り出すような声。淡い光を帯びた両目が前髪の間から覗く。
完全に瞳孔が閉じ青く輝くそれは、以前茜が見た刹那の瞳と酷似したものがあり、けれどもどこか悲しみを孕んでいた。
茜はふいと顔を背け、すぐ横のドアから逃げるように立ち去る。
階段を駆け下りビルを出ると次第に歩調は弱まり、やがてゆるゆると立ち止まる。
(何逃げ出してんの、私……)
手に持ったままのマフラーに視線を落とす。何を語る訳でもなく沈黙し、夕暮れが深緑色のそれを暖かなオレンジのグラデーションに染める。
(……違う。あの右手は私を帰す為の脅し。ちゃんと逃げ道を作ってくれてた)
踵を返そうとしたその時、頭上の窓ガラスが軽快な音をあげ砕け散り、歩道に降り注ぐ破片。
背後より風がごうっと巻き上げ、茶色のスカートと肩までの髪を靡かせた。
「――!」
しばしの後、そろそろと瞼を持ち上げると眼前に瞬矢の顔があり、するりと頬に滑らせた左手の隙間から鋭く見据えていた。
「早く……、出ていけ!」
にわかに表情を歪め絞り出すような声。淡い光を帯びた両目が前髪の間から覗く。
完全に瞳孔が閉じ青く輝くそれは、以前茜が見た刹那の瞳と酷似したものがあり、けれどもどこか悲しみを孕んでいた。
茜はふいと顔を背け、すぐ横のドアから逃げるように立ち去る。
階段を駆け下りビルを出ると次第に歩調は弱まり、やがてゆるゆると立ち止まる。
(何逃げ出してんの、私……)
手に持ったままのマフラーに視線を落とす。何を語る訳でもなく沈黙し、夕暮れが深緑色のそれを暖かなオレンジのグラデーションに染める。
(……違う。あの右手は私を帰す為の脅し。ちゃんと逃げ道を作ってくれてた)
踵を返そうとしたその時、頭上の窓ガラスが軽快な音をあげ砕け散り、歩道に降り注ぐ破片。
背後より風がごうっと巻き上げ、茶色のスカートと肩までの髪を靡かせた。
「――!」
