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【S】―エス―01

第18章 影の命

 

 それがいつのことだったかははっきりと分からない。ただ、季節が春だったことだけは確かだ。


 大きな黒い羽の揚羽蝶。ひらり、ひらひらと開かない窓の外を羽ばたいている。


 屋根裏のような埃っぽい場所で、それを眺める同じ顔をした2人の少年。


 窓の右側にいる1人は茶色い瞳、反対側にいるもう1人は黒い瞳をしていた。


「ねえ、知ってる?」


 急な茶色い瞳の少年の問いかけに、黒い瞳の少年は彼へ視線を移し小首を傾げ、きょとんと後に次ぐ言葉を待つ。


「蝶って同種で通じ合えるんだ」


「ほんとに?」


 次いで発せられた彼の言葉に、少年は驚きとその真意に対する期待で黒い瞳を見開く。


「蝶だけじゃないさ。虫や植物も通じ合えてるんだ」


 窓辺に手をつき寄りかかる茶色い瞳の少年は言う。


 「へぇ……」と黒い瞳の少年は視線を窓の外に戻して、ひらひらと宙を游ぐ烏揚羽を見つめる。


 そして思いついたように蝶を目で追いながら問う。


「僕らも、なれるかな?」


 すると、茶色い瞳の少年は蝶を見つめそれに答える。


「大丈夫さ。きっと通じ合えるよ」
 

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