【S】―エス―01
第20章 対峙
◇
屋敷で起きた火事から2週間あまりが経過し、年が明けて間もない頃。
――そう。まだ少年だった彼が『斎藤 瞬矢』として斎藤家に迎え入れられ、ほどなくしてのこと。
「今、刹那の声がした」
それは午後の昼下がり。その頃の瞬矢は不可解な発言で、度々継父母を困らせていた。
継母は困ったように眉尻を下げ、艶々しい黒髪の間から覗く頭に巻かれた包帯を撫で言った。
「あなたの弟は火事で死んだの」
「――えっ?」
左側頭部からするり両肩に手を置きゆっくりと諭すそれは、些(いささ)か暗示のよう。
だが、幼い瞬矢は心のどこかでその言葉を呑み込みきれずにいた。
いや、もしかすると突きつけられた現実を受け入れたくなかっただけなのかもしれない。
そんな思いも、暗示のように紡がれる継母の言葉に段々と薄らいでゆき……。『刹那は死んだ』いつの間にかそれだけが彼の心を支配していた。
(刹那……)
ただリビングの窓から見える四角い青空をぼんやりと眺め、あの時の火事で死んだ弟、刹那を想うのだった。
**
屋敷で起きた火事から2週間あまりが経過し、年が明けて間もない頃。
――そう。まだ少年だった彼が『斎藤 瞬矢』として斎藤家に迎え入れられ、ほどなくしてのこと。
「今、刹那の声がした」
それは午後の昼下がり。その頃の瞬矢は不可解な発言で、度々継父母を困らせていた。
継母は困ったように眉尻を下げ、艶々しい黒髪の間から覗く頭に巻かれた包帯を撫で言った。
「あなたの弟は火事で死んだの」
「――えっ?」
左側頭部からするり両肩に手を置きゆっくりと諭すそれは、些(いささ)か暗示のよう。
だが、幼い瞬矢は心のどこかでその言葉を呑み込みきれずにいた。
いや、もしかすると突きつけられた現実を受け入れたくなかっただけなのかもしれない。
そんな思いも、暗示のように紡がれる継母の言葉に段々と薄らいでゆき……。『刹那は死んだ』いつの間にかそれだけが彼の心を支配していた。
(刹那……)
ただリビングの窓から見える四角い青空をぼんやりと眺め、あの時の火事で死んだ弟、刹那を想うのだった。
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