テキストサイズ

【S】―エス―01

第20章 対峙

 靴底が床と擦れる度に長い歳月をかけて積もった埃が宙に舞う。無数のそれらは懐中電灯の光の中で、ほんの一瞬の脚光を浴びる。


 ざっと辺りを照らすと、すぐ右手に上階へと続く階段が窺えた。


 もしメモの内容が正しければ、茜は2階のどこかにいるはずだ。懐中電灯に照らされた、すぐ右手の階段へと歩を進める。


 暗がりの中に階段を上る靴音だけが響く。暖かみを一切感じさせないその音は、静寂であるからこそ余計に反響し際立つ。


 2階へと向かう途中の踊り場にある小さな四角い窓からは、ぼんやりと霞んだ三日月が笑いかけた。仄かな明かりに闇が切り開かれる。


 しかし、それも一時のこと。分厚い雲の向こう側に、微笑みを湛えたその姿を潜めてしまう。


 辺りは再び闇に包まれる。


 最早、懐中電灯のわずかな明かりと己の勘だけが頼りだった。


 階段を上りきると、左側の壁に再び白いメモ用紙がテープで貼られていた。


 そこには、やはり黒インクで何か2行ほどの文字が書かれている。


 やおらそれをむしり取り、目を通した内容に瞬矢は訝り眉をひそめる。



(……。どういう意味だ?)

 

ストーリーメニュー

TOPTOPへ