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【S】―エス―01

第20章 対峙

 すると、そんな瞬矢の心中を察したかの如く彼は言う。


「君には、君にしかない大切なものを持っているじゃないか」


 「ここにね」と、指先で瞬矢の心臓辺りを示した。瞬矢は指し示された場所へ目線を落とす。


「その為に君を斎藤家に預けたんだ」


 ゆっくり辿るように視線を送ると、彼はにこりと笑う。その笑顔は研究者としての貼り付けた冷笑でもない、温もりある1人の人間のそれであった。


 瞬矢はその源を知っていた。


 それは直接肌に触れた際に伝わる体温とはまた違う、そう、例えるならばころころと移ろう天気のように温かなもの。


 不確かで移ろい易い。だが確かに温かく、時に身悶え、狂おしいまでに存在するそれは――【心】。


 再び踵を返し、目の前の廃墟を見据え駆け出した。


     **


 ――ガラス張りの重いドアを開け正面入り口をくぐる。


 当たり前だが1階フロアは暗く、明かりはついていない。


 正面に向けた懐中電灯の光が、突き当たりの窓に反射し映る。その様は、不気味さすら感じさせた。
 

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