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【S】―エス―01

第21章 崩壊

 ◇1


 ――10年前、雲に覆われた空は今にも雪が降りだしそうだった。


 よぎるのは、彼の後を追いかけ転び足を挫いたあの日のこと。


 地面にへたり込み頬を染めながら、それでも握った両手で涙を拭う。


 すると急に視界が曇り、見上げると――鈍い逆光の中、笑顔で手を差し伸べる彼がいた。


「大丈夫?」


 そう言って首を傾げた際に、艶やかな黒髪がさらりと彼の顔にかかる。


 伸ばした手には、銀色の腕輪が光を反射し眩しく輝く。そこに刻まれた数字は【S‐06】。


(瞬矢、……刹那? りく……あなたは誰?)


     **


「ん……」


 妙に息苦しい。唇に走る違和感。柔らかな髪の毛の質感が鼻筋にかかる。


(……瞬矢? ――違う!)


 咄嗟に唇へと噛みつく。


「っ!」


 密着していた互いの体がするりと離れる。その隙に茜は突き放し手中から逃れ、よたよたと後退した。


 茶色い瞳を潤ませ、刹那に対し敵意の眼差しを向ける。違和感はいまだ残り、口元を押さえ、膝からへたり込む。


 留まりきれなくなった感情が幾筋も頬を伝い、ぽたぽたと溢れ落ちた。
 

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