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【S】―エス―01

第23章 覚醒

 抑揚のない耳に当たりのよい声が、静かに瞬矢を威圧する。


 兵器として造り出され、ただ破壊する為だけの心なき存在。ならば今まで見せてきた表情、その全てが貼り付けた偽りのものだったのだろうか。


 ――否。どんな形であれ人が『人』でありそこに個がある以上、感情を完全に消し去ることはできないのだ。


「瞬矢!」


 どうしようもなく溢れる気持ちに加え、背後の窓から差す月明かりが後押しし、気づいた時には声を張り上げ彼の『名前』を呼んでいた。


「誰がなんて言おうと、あなたは『斎藤 瞬矢』なんだから! たまに優しいけど、どこか不器用で――。だけど……」


 発した言葉は尻すぼみとなり、ふっと膝から崩れ落ちる。俯き両手を重ね握り締め、確かめた想いは今自身の中にある確固としたものだった。


 この気持ちに偽りはない。


 顔を上げ、ゆっくりだがはっきりと伝える。


「例えあなたが何者でも、私は信じてる。だって……あなたはあなたなんだから」


 胸の前で握り締めた両手を下ろし肩の力を抜き、にこりと微笑んだ。その両目には、いっぱいの涙を浮かべて。
 

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