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【S】―エス―01

第23章 覚醒

 言い終えるより早く、頬に触れていた左手の力が抜ける。彼の双眸に宿る命の光は、次第に小さく弱々しく薄れていった。


「瞬矢!?」


 揺すっても呼びかけても反応がない。何かを言いかけたまま半開きとなった口、瞳は最早何物をも映してはいない。


 瞬矢の左手を、自らの両手で包むようにして見下ろす。


 堪えきれなくなった感情が睫毛を濡らし、その先端から重力に従いいくつもの温かな滴が彼の頬に当たっては弾かれ波紋を描く。


 床に広がる血溜まりが膝の辺りにまで浸食を始めていた。


「さよなら」


「!」


 茜は咄嗟に声のした方を振り返る。刹那の放った鉄材の先端が牙を剥き、すぐそこまで迫っていた。


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