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【S】―エス―01

第23章 覚醒

 ◇2


 あれはいつのことだっただろうか。


 屋敷の庭から見上げた空には分厚い雲がかかっている。それは太陽を遮り、そのお陰で大気はしんと冷え、今にも雪が降りだしそうだ。


「まってよ、りく!」


 幼い彼女は刷り込みされた雛鳥のように背後をついて回り、どさり、乾いた音に振り返るとやはり地面に突っ伏す彼女がいた。


「大丈夫?」


 起き上がり地べたへ蹲(うずくま)る少女に歩み寄り、そっと左手を差し伸べる。


 最初は半べそをかいていた彼女だったが、上目遣いにりくを見て睫毛を濡らしたままはにかむ。


「りく、ずっといっしょだよ?」


 転んで足を挫いた少女はりくの背中におぶさり、嬉しそうに頬を赤らめ言う。背中から伝わる彼女の温もりだけが、少年の心に灯火をつけた。


「もちろんさ!」


 頬に落ちては溶ける雪の冷たさにも負けない『傍にいたい』という気持ちに変わり、足取りも自然と力強いものとなる。


「ねぇ、りく……」


 顔のすぐ近くで少女の不安げな声が聞こえてきた。少年は黒髪を揺らし、彼女の方に少しだけ顔を向ける。
 

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