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【S】―エス―01

第25章 白日のもとに

 ◇1


 風が吹き込み、カーテンが揺れる。見覚えのある天井は、あの屋敷のものだった。


 体が鉛のように重たく、横になり目を開けているだけで精一杯だった。


 不意に誰かが手を取る。その手の大きさと温もりから、少年はある人物を思い描く。


「絶対に……絶対に死なせない」


 「死なせるものか」そう言い少年の小さな手を包み込むように握った両手に力が篭る。


「父……さん……」


 病床に伏した少年は、誰が話さずとももう自身の命が長くはないと悟っていた。ゆらりと横に振れた彼の視界は、窓の外を映す。


「もし、生まれ変わったら……」


 その言葉を最後に瞼は重くなり、意識は暗転する。


     **


「……っ」


 意識が明確となり、瞼を持ち上げた瞬矢は日差しの眩しさに目を細め、右手で視界を覆い光を遮る。


 ゆっくりと右手をずらし、視界に入ってきたのはくすみを帯び年期の入った白い天井と、やはり枕元で風にふわりと靡くカーテンだった。


 まだ夢の続きを見ているのかと思ったが、違うようだ。


 瞬矢は病院のベッドの中にその身を横たえていた。顔を傾け右隣に視線を送ると、そこには今だに昏々と眠り続ける刹那の姿が。
 

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