
【S】―エス―01
第27章 消えない過去
◇1
それは、およそひと月ほど前のこと。
ドイツ――ミュンヘン。3月25日、午後4時00分。
すぐ側に国境を捉え、北東より流れるドナウ川のやや南下に位置するその街に刹那はいた。
時刻が毎時00分を回ると、決まって街中に鐘の音が聞こえる。ヨーロッパ諸国独特の時報だ。
響き渡る時報の鐘が、車のクラクションと行き交う人々の喧騒に紛れ、決して耳障りではない不協和音を生み出す。
鐘の音と雑踏の中、不意に誰かに呼ばれた気がした。
「……誰?」
立ち止まり、振り返ってみたものの辺りにそれらしき人影はなく、相変わらず重厚な鐘の音だけが響く。
《――こっち》
直接響いてくる声に右手で頭を押さえる。人波から刹那だけが取り残される。
だが刹那にはその感覚に覚えがあった。それは、かつて瞬矢と共有した自分たちだけの能力。
だとすれば恐らくそれは……。
拭いきれない不安要素が、刹那の脳裏によぎる。だが、きっと考え過ぎだ、そう結論づけて再び歩を進めた。
それは、およそひと月ほど前のこと。
ドイツ――ミュンヘン。3月25日、午後4時00分。
すぐ側に国境を捉え、北東より流れるドナウ川のやや南下に位置するその街に刹那はいた。
時刻が毎時00分を回ると、決まって街中に鐘の音が聞こえる。ヨーロッパ諸国独特の時報だ。
響き渡る時報の鐘が、車のクラクションと行き交う人々の喧騒に紛れ、決して耳障りではない不協和音を生み出す。
鐘の音と雑踏の中、不意に誰かに呼ばれた気がした。
「……誰?」
立ち止まり、振り返ってみたものの辺りにそれらしき人影はなく、相変わらず重厚な鐘の音だけが響く。
《――こっち》
直接響いてくる声に右手で頭を押さえる。人波から刹那だけが取り残される。
だが刹那にはその感覚に覚えがあった。それは、かつて瞬矢と共有した自分たちだけの能力。
だとすれば恐らくそれは……。
拭いきれない不安要素が、刹那の脳裏によぎる。だが、きっと考え過ぎだ、そう結論づけて再び歩を進めた。
