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【S】―エス―01

第27章 消えない過去

 ◇2


 ――同日、午後2時10分。


 ミュンヘン集合住宅街の一室。


 寝室の山吹色の壁は事件に関する記事で埋め尽くされている。中には、日本の記事も混在していた。


 全て、なんらかの形で【S】に関連性があると思われるものだ。


 そこには窓からの光を背に受け、ベッドに浅く腰を据える彼女、リンの姿があった。


 比較的ラフな格好の彼女の手には、折り畳み式ナイフ。刃を出したり仕舞ったりを繰り返し、その度に金属の擦れ合う小気味よい音が響く。


 刹那からの連絡はまだない。


 だがリンには確信があった。あれほどのことを言ったのだから、遅かれ早かれ必ず連絡してくるだろうと。


 別段、焦る必要はないのだ。


 いまだに鳴らないテーブルの上の携帯電話から、入り口の壁へと視線を移す。


(それに、彼はワタシの――)


 いったいいつ、どこで手に入れたのか、事件の記事で埋め尽くされた壁の中央に貼られた刹那の写真を、鋭い射抜くような目つきで見据える。


「刹那……」
 

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