
【S】―エス―01
第27章 消えない過去
瞬矢たちはどうしているだろうか。
おもむろにコートのポケットから携帯電話を取り出す。暗い部屋の中、ディスプレイには3人で写っている画像が映し出された。
ようやく目が覚めた時に撮ったものだ。2人の横でどう反応していいのか青い入院服のまま眉尻を下げはにかむ自分。
今思い出しても懐かしく、刹那は半目し、しばし当時を回顧する。
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――翌、3月26日。
またしても先日の事件と関連性があるとおぼしき他殺体が、今度はライン川の支流であるネッカー川の下流域で発見された。
被害者の左胸には、やはりアルファベットで『S』と刻まれていたようだ。
昼間、再び細い路地に続く道の前を通った。だが不思議なことに、あれほど頭の中に直接響いていたあの声も、今ではすっかり聞こえなくなっていた。
ただ、正午を告げる時計塔の調べだけが響く。
