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【S】―エス―01

第27章 消えない過去

 ぱっちりと目一杯に見開かれた瞳は、碧眼でなく茶色よりも薄い褐色。


 溢れた鮮血が腕を伝って滴り落ち、ぽたり、ぽたりと冷たい石畳に幾度となく赤い波紋を描いた。


 だらりとこちらに向け見せた左腕の傷口は、瞬く間に細胞が修復、再生されてゆく。


 長い睫毛に縁取られた奥で揺れる褐色の双眸は、相も変わらず無表情でじっと刹那を見つめ、やがて小さな唇が言葉を紡ぐ。


『僕は、なんなの?』


 その言葉は直接刹那の頭の中に響き、視界は天へ、くらりと立ち眩む。がくんと膝が脱力し、足元からよろけ、背後の壁へ背中を預ける。


 壁へ凭れたことによって角度が変わった視界の端に、コートを着たスーツ姿の男が立っていた。


 男は黙って少年の手からナイフを取り上げると立ち上がらせ、ついて来るよう促す。


 自分は何者なのか、なんの為に存在しているのか、それは、刹那自身が幼い頃その事実を知りその『名』を得るまでずっと抱き続けてきた疑問だった。


「……っ」


(同じだ……)


 刹那は、『自分は何者か?』と問う眼前の少年に対して、無意識に昔の自分を重ねる。同時に頭を押さえ、苦虫を噛み潰すかのように固く目を伏す。
 

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