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【S】―エス―01

第28章 愛憎の刃

 
 ――明けて31日、午前7時40分。余韻も冷めやらぬ中、一足先に身支度を整えスーツのポケットから携帯を取り出した。


 数回のコール音の後、誰かが着信を受ける。


「……ええ、そう。たぶん近いうちに……」


 静かにそう答え、窓から差し込む光を背に受け眠る刹那にちらりと視線を送る。


「……分かったわ」


 通話相手の要求に対し、リンは端的に一言そう返答し終話すると、ポケットに携帯を仕舞い再び背後の彼を見やる。


(昔のアナタはどうか知らない。けど……今のアナタにあの子が殺せるかしら?)


 メモ用紙を手にベッドに上り、そっと刹那の耳元に顔を寄せた。伸ばした指先は素肌に触れる。


「ごめんなさい。でも――」


 垂れた前髪が刹那の頬にかかり、ゆっくりと動く薄い唇が本懐を刻む。


「ん……」


 耳元で囁かれた言葉は、擽(くすぐ)ったげに閉じた彼の瞼を震わせ、眠りの中で曖昧な返事をする。


 金属的なドアの開閉する音が響いた時、すでに部屋の中にリンの姿はなく、枕元には何か書かれたメモ用紙が残されていた。

 

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