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【S】―エス―01

第29章 S‐145

 なんと言っているかは、耳鳴りに掻き消されて分からなかった。


 だが、まるで少年が呼んでいるような気がして、突き動かされるように辿り奥へと進む。


 突き当たりの角を右へ曲がり、飛び込んできたのは、灰色の重厚な扉だった。


 まるで何かを押し込めたような、重く冷たい金属製の扉。少年の気配はそこから強く発せられている。


(やっぱり、この先か……)


 徐々に扉との距離を縮めてゆく。


「そこに、いるのかい?」


「……」


 だが扉の向こうから返答はない。


 教会に残された痕跡は、全てこちらの言葉で書かれていた。そのことから推察するに、どうやら言葉が通じていないのだろう。


 ぼやぼやとしていられない。


 とりあえず接触を試みる為、外側からしっかりと施錠してある扉の鍵を壊すことにした。


 恐らくカードキーで解錠するのだろうオートロック形式の鍵の上には、内側から決して開かないように鎖で厳重に巻かれている。鍵の部分に、すっと右手を翳(かざ)す。


 瞬間、巻きつけられた鎖もろともパキン――と、小気味よい音を上げて縦10センチメートルの四角い鍵は綺麗に断裂した。
 

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