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【S】―エス―01

第29章 S‐145

 口答ではなく目線だけで直接語りかける眼前の少年に、刹那は一瞬目を見張る。


 何、別段驚くことはない。思い返せば、昔、自分もよくやっていたことだ。


 口の端に薄い笑みを湛え軽く目を伏せ、少年の問いかけに答えるように言霊を交わす。


《僕は『刹那』。たぶん、君と同じだよ》


《セツ……ナ?》


 薄暗がりの中で膝を抱えた少年は、顔を上げ刹那を見つめる。


 容姿こそ昔の自分そっくりであるが、自然な茶色い髪や白い肌、瞳の色などはまさしく異人のそれであった。


 少年の側まで歩み寄ると膝を曲げしゃがみ、目線を同じくする。


《ここには、君だけかい?》


 刹那が問うと少年はこくりと黙って頷き、視線だけで「今は僕だけだよ」そう返す。


 相変わらず結ばれた唇に半目した瞳はどこか一点を見つめ、核心に迫るだろうことを訊ねた。


《僕を、殺しに来たの?》


 そうだった。ここへ来た本来の目的――それは、犯人であるこの少年を――。


 少年の一言で、無意識のうち、自分が彼に同類としての情を抱いていたことに気づかされる。


 そしてその思いを振り切ろうと、刹那は背後へ隠した右手に意識を集中させる。


《……仕方ないよね。僕は人殺しだから》
 

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