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【S】―エス―01

第30章 日本へ……

 ◇1


 あれから2日後の4月5日。――ミュンヘン。


 午前8時53分。


 必要以上の物がない見慣れた部屋へと戻って来た刹那は、ベッドを占領し眠る咲羅を傍らで見つめ思案に耽(ふけ)る。


 なぜ追って来なかったのか。


 それは、ここへ戻って来る間から今までずっと考えていたこと。そして思い当たったのがもうひとつの可能性。


 白いシャツの襟元を捲りそれを確認しようとしたその時、のそり咲羅が目を覚ます。彼はまだ眠たげに瞼をごしごし擦り、ちら、とこちらを見やる。


「んー……?」


 眠気眼の咲羅に対し笑いかけながらも、刹那にはもうひとつしておかなければいけないことがあった。


 それは自分たちがそうであったように、恐らく彼の左胸にも埋め込まれているであろう追跡装置の除去。


「咲羅」


 ベッドの縁に足を投げ出し座る咲羅の方へと向き直り、改めて目線を低く屈む。


 そして、肩に添えた両の手をそっと撫で下ろすと、長い睫毛に縁取られた褐色の瞳を見つめ言う。


「僕を、信じてくれる?」


 咲羅は褐色の瞳でじっと見つめ返し、やがて黙って頷いた。
 

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