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【S】―エス―01

第30章 日本へ……

 するり、絡めた腕はほどかれ、再び彼女は挑発的な視線を向ける。その言葉は暗に自身の裏切りを示唆していた。


 だがすぐさま目を伏せ、ふる、とかぶりを振り、


「本気にならないで……」


 切に瞳を揺らし今にも消え入りそうな声色でそう言って、リンはするりと刹那の腕の中から抜け出した。


 その際、右頬のラインに添って垂らした横髪が、掌の上をさらりと撫でる。


 階段へ向かう廊下の中ほどで一度足を止めた。そして振り返ったその顔に、柔らかな笑みを貼り付け言う。


「また会いましょう」


 意味ありげな言葉を残し、今度こそ立ち止まることなく廊下の先にある階段へと姿を消した。


 その姿を見送りながら、刹那は肩を竦めひとつ溜め息をつく。やがて踵を返し、咲羅の待つ【306】と標された部屋のドアへと手をかけた。




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