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【S】―エス―01

第30章 日本へ……

 
「分かってて行かせるなんて、酷いな」


「ん……っ」


 反論の余地を与えず塞いだ唇。ゆっくりと歯列をなぞり、彼女もゆるりと刹那の首に腕を回してそれに応える。


 指先で体の線を準え分かる、冬物とはまた違ったスーツの手触りと生地の薄さ。


「咲羅を連れて日本へ行くよ」


 惜しむように深く重ねた唇を離し、鼻先が触れるほどの距離で囁く。


「っ……そう」


 彼女を目にした時の、咲羅の怯えよう。まるであのハロルドと対峙した時と同じ、以前から知っているかのようだった。


 息を吐き答えるリンを見つめ、刹那は降って湧いた疑問を投げかける。


「リン、もしかして君は――」


 よもや裏でハロルドと繋がり、あの場所で行われていた実験に関わっているのでは――そう訊ねようとした。


 その時、ふたつの顔の間に割り入った彼女の手の指が「言うな」とばかりに唇に触れ、すっと寄せた体を押し戻す。


「言ったでしょ? アナタは敵。それに、女に秘密はつきものよ」
 

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