
【S】―エス―01
第30章 日本へ……
リンはそれを横目に捉え、すれ違いざまにぽつり。
「彼、あの子を連れて日本へ行くつもりよ」
踵を返すハロルドの靴音が、すぐ背後に迫る。頭の天辺から爪先にかけてまで緊張感が走り抜け、身動(みじろ)ぎひとつすら出来ない。
「そうかい」
ぴたり靴音が止まったかと思うと、その声は予想以上に近く、耳元で聞こえた。それは全神経にまで響き渡り、ぞくりと総毛立つ。
だが同時にリンは心のどこかで、その低く鼓膜を震わす声に恍惚すら感じ得ていた。
ハロルドは別段動じたふうも見せず、続けて「こうなると分かってて接触させるなんて、君も残酷な女だ」そう皮肉混じりに笑う。
振り返ることが出来ずにいたリンは、口の端に引きつった笑みを湛えて「そう仕向けたのはアナタよ」と冷たく言い放つ。
「でも、行かせてよかったの?」
同じ【S】である彼ならば、追跡装置の存在にも気づいているはず。なら、場所を特定し、追いかけることも困難なのではないか――そう考えたのだ。
「構わないさ」
「彼、あの子を連れて日本へ行くつもりよ」
踵を返すハロルドの靴音が、すぐ背後に迫る。頭の天辺から爪先にかけてまで緊張感が走り抜け、身動(みじろ)ぎひとつすら出来ない。
「そうかい」
ぴたり靴音が止まったかと思うと、その声は予想以上に近く、耳元で聞こえた。それは全神経にまで響き渡り、ぞくりと総毛立つ。
だが同時にリンは心のどこかで、その低く鼓膜を震わす声に恍惚すら感じ得ていた。
ハロルドは別段動じたふうも見せず、続けて「こうなると分かってて接触させるなんて、君も残酷な女だ」そう皮肉混じりに笑う。
振り返ることが出来ずにいたリンは、口の端に引きつった笑みを湛えて「そう仕向けたのはアナタよ」と冷たく言い放つ。
「でも、行かせてよかったの?」
同じ【S】である彼ならば、追跡装置の存在にも気づいているはず。なら、場所を特定し、追いかけることも困難なのではないか――そう考えたのだ。
「構わないさ」
