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【S】―エス―01

第30章 日本へ……

 リンの問いかけに、ハロルドは平然と答えた。そしてその後、何を思いついたのか「ああ」と声を発し、両目を細め顔を寄せる。


「まさか、別の火がついたとか?」


 そう、彼はからかうような口振りで、リンの頬を右手でついと準えた。


「やめて」


 だがリンは、そんな訳ないと一笑に伏し、触れていた右手を軽く払いのける。


 そのまま背後に立つ彼の傍を通り過ぎ、奥にある部屋へ戻ろうとした。その時、


「リン!」


 後方でハロルドが呼び止める。踵を返すと、ゆっくりとこちらへ歩み寄り目の前でぴたりと止まる彼がいた。


 再び全身を駆け抜ける緊張感。


 眼前の彼――ハロルドは半目し、見下ろすように眼鏡の奥の碧眼をリンへ向けて静かに言う。


「君の目的と役割、分かってるね?」


 左手で顎を掴み、くい、と自分の側へ引き寄せ目線を合わせる。気づいた時すでに遅し、碧眼の奥を見つめ返す瞼は重く、とろんと虚ろな瞳。


「……はい」


 たった一言、感情のこもらない貼り付けた定形的な言葉がリンの口から溢れた。
 

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