
【S】―エス―01
第31章 ハローバイバイ
◇1
午後1時05分。郊外の山奥にある別荘。
そこの2階に東雲 茜の姿があった。茜はこれからやって来る刹那を迎える為に長期間使われていなかった部屋の窓を開け、ふと遠く山の瀬を望む。
今年も蝉が賑やかだ。そんなことを考えながらシーツを手にした時、
「……茜」
不意に嗅ぎ慣れた香りが背後からふわりと包む。緩く回された腕と耳元で低く囁かれた声に、茜は後方へ顔を向ける。
「瞬矢!」
だが彼は密着させた体を離さぬまま、悪戯っぽい笑みを浮かべる。
「用意しとかないと。刹那が来ちゃうよ?」
予告なしの抱き竦めにはもう慣れた。だが不意打ちで見せるこの悪戯っ子のような笑顔には敵わない。
「いいって。それとも、あいつの方が大事?」
栗色のふわりとした髪の毛がかかる首筋に顔を埋め、ゆっくりと肩へ唇を這わせた。
「……っ、ちが……っ」
色々とありはしたが、ようやく兄弟として分かり合えた……ましてや2年ぶりに会うのだ。そんな訳にはいかない。
午後1時05分。郊外の山奥にある別荘。
そこの2階に東雲 茜の姿があった。茜はこれからやって来る刹那を迎える為に長期間使われていなかった部屋の窓を開け、ふと遠く山の瀬を望む。
今年も蝉が賑やかだ。そんなことを考えながらシーツを手にした時、
「……茜」
不意に嗅ぎ慣れた香りが背後からふわりと包む。緩く回された腕と耳元で低く囁かれた声に、茜は後方へ顔を向ける。
「瞬矢!」
だが彼は密着させた体を離さぬまま、悪戯っぽい笑みを浮かべる。
「用意しとかないと。刹那が来ちゃうよ?」
予告なしの抱き竦めにはもう慣れた。だが不意打ちで見せるこの悪戯っ子のような笑顔には敵わない。
「いいって。それとも、あいつの方が大事?」
栗色のふわりとした髪の毛がかかる首筋に顔を埋め、ゆっくりと肩へ唇を這わせた。
「……っ、ちが……っ」
色々とありはしたが、ようやく兄弟として分かり合えた……ましてや2年ぶりに会うのだ。そんな訳にはいかない。
