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【S】―エス―01

第33章 計画

 
 ――午後11時42分。


 現(うつつ)に目覚める1人の人物。視界が霞んでいるからか辺りは暗く、真の闇と喩えてもいいだろう。


 肌に触れる空気はひやりと冷たい。


 辛うじてベッドの上、毛布のようなものはかかっているが、寒さを凌(しの)ぐにはあまりにも心許ない。


(まだ眠たいや。もう少し、だけ……)


 手探りで毛布を引き寄せ小さく蹲(うずくま)り、再び目を閉じた。


《――……て……》


 誰かに呼ばれた気がし、まだ重たい瞼を再度持ち上げる。


「……あぁ。今、起きるよ」


 尚も漆黒の闇が包む部屋の中、ドアの隙間から差し込む緑色の仄明るい光を受けて人物は薄らと輪郭を浮かび上がらせる。


 冷たい空気を肌に感じつつも彼は、自身の脳内へ直に響く誰とも知れない声に言葉を返す。


 返事をしたところで、その声が相手へ聞こえる訳でもないだろうに。


 やがてむくりと起き上がり、記憶を反芻するかの如くしばし瞑目した。


 その後、自身の両足でしかと地を捉えた彼は、襟つきの白いシャツに袖を通し部屋の入り口へと向かう。


 その口元に、わずかな笑みを湛えて。



 

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